野球の試合において、必ず白線で示されているバッターボックス。
あまり深く考えることはないかもしれませんが、具体的に「どこまでがバッターボックス内なのか」「足の一部が出ていてもOKなのか」「バッターボックスの出入りは自由にできるのか」など、一度考え出すと悩んだり迷ったりしてしまうケースがあるかもしれません。
今回は、そんな野球のバッターボックスについて、概要やルールを分かりやすく解説していきます。
バッターボックスとは?
「バッターボックス」は、バッターが打撃を行う際に立つ場所を白線で示したものです。
私たちが「バッターボックス」や「打席」と呼ぶものは、野球規則で「バッタースボックス」「打者席」と表現されます。(※この記事では、私たちが普段使っている「バッターボックス」や「打席」という言葉を用いて解説を行っていきます)
バッターボックスはホームベースの両サイドにあり、三塁側が右打席(=右バッターが打撃を行う場所)、一塁側が左打席(=左バッターが打撃を行う場所)となっています。
どちらで打つかの選択は自由ですが、例えば以下のような行為をしてしまうと、バッターにはアウトが宣告されます。
- 右打席に立って打撃姿勢をとる
- ピッチャーが投球姿勢に入る(プレートに触れてサインを見る)
- そのタイミングで左打席に移る
つまり、投球間に打席を移動することは問題ありませんが、投球に関連した動作をピッチャーが起こした後に移動するとアウトになってしまうということです。
バッターボックスに関するルール①~バッターの義務
バッターボックスは自由に出入りできる?
自分の打順が回ってきたときに、バッターは「①速やかにバッターボックスに入ること」、「②そこで打撃の姿勢をとること」の2点を行わなければなりません。
前のバッターが塁に出るorアウトになれば、審判員は次の打者が速やかにバッターボックスに入るように促さなければならないと規定されています。
また、ピッチャーがワインドアップモーションに入った場合、またはセットポジションに入った場合に、バッターがバッターボックスの外に出ることや打撃の姿勢をやめることはできません。
上記のルールを守らなかった場合、ピッチャーが投球すれば、その投球に対してストライクまたはボールが宣告されます。
ボークに関する記事でもご紹介しましたが、バッターがピッチャーと正対しない状態(サインを確認している、打撃姿勢を十分にとっていないなど)で投球してしまうとピッチャーにはボークが課されます。
しかし、バッターが一度正対すれば、ピッチャーは投球を開始しても問題ありません。
そこからバッターボックスの外に出る/打撃姿勢をやめるなどの行為をすることは、バッターのルール違反となります。
ピッチャーがワインドアップモーション/セットポジションに入っていれば、仮にバッターや攻撃側のチームがタイムを要求したとしても、審判員はタイムをかけてはいけないと定められています。
目に虫やごみが入った場合など、どんな理由であってもタイムの要求が認められないことも押さえておきましょう。
一方で、ピッチャーがワインドアップモーション/セットポジションに入る前であれば、バッターボックス内にいてもタイムを要求することは可能です。
ただし、一度バッターボックスに入って打撃姿勢をとった後は、原則として自由にバッターボックスの外に出ることは許されていません。
バッターボックスに関するルール②~バッタースボックスルール
バッタースボックスルールとは?
「バッタースボックスの外に出る」という表現は、「両足をバッターボックスの外に出す」と言い換えることができます。
つまり、「バッターボックスの外に出てはいけない」という表現は、「バッターボックスにいずれかの足を置いておかなければならない」と解釈することができます。
いずれかの足をバッターボックスに置いておくことが原則ですが、野球規則における「バッターボックスルール」のなかで、バッターボックスを離れてもよい(=両足を出してもよい)例外が規定されています。
具体的には以下のようなケースが挙げられますが、いずれの場合もホームプレートを囲む土の部分(ダートサークル)を出てはいけません。
- 投球に対して、バットを振った勢いでボックスの外に出てしまった場合
- 投球が自分へ向かってきたために、バランスを崩すor外に出ざるを得なかった場合
- バントをするモーションを起こした場合
- ワイルドピッチやパスボールが発生した場合
- 塁上でのプレイを守備側のチームがはじめた場合
- 攻撃側/守備側のチームがタイムを要求し、審判員がタイムを宣告した場合
- ボールを受け取ったピッチャーがマウンドの土の部分を離れた場合
- キャッチャーがキャッチャースボックスを離れて守備を行う選手にシグナルを送る場合
- ハーフスイングのリクエストが塁審に対して行われた場合
このほか、誰かが負傷した(誰かの負傷が疑われる)ケース、プレーヤーの交代が行われるケース、攻撃側/守備側いずれかのチームが協議するケースでタイムがかけられた場合は、バッターボックスに限らず、ホームプレートを囲む土の部分(ダートサークル)を出ることも許されています。
バッタースボックスルールの目的
「バッタースボックスルール」は、もともとスピードアップによる試合の時間短縮を目的として規定されているものです。
こうした例外は、バッターが意図的にバッターボックスを離れることによってプレイを遅らせることを防ぐために、その線引きを明確にしたものと考えることもできます。
例えば、バッターがベンチからのサインを見るために、1回1回打席を外して確認を行うとしたらどうでしょうか。
そこまで時間に差はないと思ってしまうかもしれませんが、全てのバッターが同じことをしていては、タイムロスが積み重なって、試合時間が長くなってしまいます。
例外で示したものに加え、ピッチャーが理由なくグズグズしている時、天候上やむを得ない時など、一度打席を外すことが認められる場合もあります。
例外も含めた「やむを得ない状況」「理解できる状況」は別として、「短縮できるところは短縮していきましょう」「遅延行為はやめましょう」という考えが根本にあることを押さえておくと、より理解が深まると思います。
バッターボックスに関するルール③~こんな場合はどうなる?
自動的にストライクとなる場合
冒頭でご紹介したように、バッターには「①速やかにバッターボックスに入ること」、「②そこで打撃の姿勢をとること」の2点が求められます。
仮にバッターボックスに入っていたとしても、バッターが打撃姿勢をとらないために、ピッチャーがなかなか投球できないケースも考えられるかもしれません。
例えば、サインの確認がものすごく長い場合、あるいは判定に納得がいかず、抗議する意味合いで打撃姿勢をとらないようなケースも考えられます。
その場合、球審は打撃姿勢をとるよう促しますが、それでも打撃姿勢を取ろうとしない場合には、自動的にストライクを宣告するルールとなっています。
以前は、ピッチャーに対して投球するよう命じ、どんな投球であってもストライクを宣告するという運用でした。
しかし、現在はピッチャーが投球を行わずとも、バッターに対し自動的にストライクが宣告されることになっています。このケースではボールデッドの扱いとなるため、ランナーが進塁することはできません。
ピッチャーが投球を中断したらどうなる?
ピッチャーがワインドアップモーション/セットポジションに入った場合、バッターがバッターボックスの外に出ることや打撃の姿勢をやめることはできないとご紹介しました。
バッターが規則に反してバッターボックスの外に出たり打撃姿勢をやめたりしたとしても、ピッチャーが投球すれば、その投球に対してストライク/ボールが宣告されます。
しかし、バッターにつられる形でピッチャーも投球を中断してしまう場合があります。
塁上にランナーがいる場合には、投球を中断する=ボークになるのではないか?と考える人がいるかもしれません。
しかし、バッターが規則違反をしたことによって、ピッチャーも規則違反をしてしまう=両者が規則違反をしていることになるため、ボークは宣告せず、もとの時点からやり直しという扱いになります。
2020年9月のソフトバンク‐オリックス戦で、上記のようなケースが発生しました。
セットポジションの時間が長いことを嫌い、バッターがタイムを要求します。
しかし、冒頭でご紹介したように、ピッチャーはすでにセットポジションに入っているため、バッターがタイムを要求することはできません。
バッターのタイム要求に対して、球審もタイムを宣告せずに、そのままプレーを続行させていることが分かると思います。
しかし、バッターの動きを見てピッチャーも投球をやめてしまったため、自動的にプレーが止まるような形になってしまいました。
映像にははっきりと映っていませんが、審判団が協議した後、ランナーを2塁へ戻すようなジェスチャーをしていることが分かります。
これは、おそらくボークだと思ったセカンドランナーが、一度3塁へ進んだものと推測できます。
しかし、先ほどご紹介したように、ランナーも含め、もとの時点からやり直しという扱いで試合が再開されることになります。
バッターボックスに関するルール④~バッターボックスと足
バッターボックスから足が出たらどうなる?
バッターボックスから片足でも完全に外に置いて打った場合、バッターは反則行為でアウトとなります。
「打つ」には、セーフティバントやスクイズバントなどが含まれることも押さえておきましょう。
ここでポイントとなるのが、「完全に」という言葉。つまり、つま先などの一部分がバッターボックスの外に出ていたとしても、白線に足が少しでも残っている状態で打てば反則行為とはなりません。
上記の動画で、1人目のバッターがバントをする際の足に注目してみてください。
つま先はバッターボックス外にありますが、白線に足がかかっているため問題はありません。
2人目のバッターは非常に微妙なところではありますが、かかとの一部が白線にかかっているため問題ないという判断になっていると考えられます。
試合を進めるなかで白線が消えたり、伸びたりする場合がありますが、その場合も白線がもともと引かれていた場所に基づいて判定が行われます。
また、「打つ」というのは、投球がバットに当たるという意味合いも含まれています。
空振りや見逃しなど、ボールがバットに当たっていない状態では、仮に足が完全にバッターボックスの外に出ていたとしてもアウトにはなりません。
足を完全に出した状態でバットに当ててしまえば、それがフェア・ファウル(ファウルチップを含む)にかかわらず、反則行為でアウトとなります。
構える時と打つ時の足の位置
ちなみに、バッターボックスで打撃姿勢をとる際は、いずれの足もボックス内に置いておかなければなりません。
バッターボックスのラインはバッターボックスの一部という扱いであるため、ライン上に足を置くのは問題ありません。
ただし、ラインから少しでもはみ出した状態で打撃姿勢をとることはできないということです。
以下のように整理すると分かりやすいと思います。
先ほどの動画を見ると、1人目・2人目いずれも、構える時は足がライン上→打つ(バントする)時は足の一部がはみ出している状態であることが分かると思います。
また、スクイズプレイなどでよくみられる光景ですが、バットに当てる時に足が空中にある状態であれば、当てた後に足がボックス外に着地したとしても反則となりません。
バントについては以下の記事で詳しく紹介しています。
さいごに
今回は、バッターボックス関連のルールについて、具体的な事例を交えながらご紹介しました。
複雑な内容も多い野球ルールには、「何となく分かっているようで分からない」なんてものも多いはず。
バッターボックスに関するルールに目を向けただけでも、シンプルそうに見えて、実は奥深い世界であることが分かると思います。
そのルールの根本にはどのような目的があるのかを探っていくことで、「なぜ」「どうして」が解消される部分、理解を深めることができる部分もあるはずです。