「代打の切り札」「代打の神様」という言葉が存在するように、野球の試合において、「ここぞ!」という場面で起用されることも多い代打。
負傷やケガなどでやむを得ず代打を送るケースもありますが、どうしてもチャンスを広げたい場面、得点がほしい場面などで代打を出すこともあり、攻撃側における重要な作戦の一つと考えられています。
今回は、代打に関する基本的な知識から、ルールなどの応用的な事項まで、要点を整理しながら解説していきます。
代打とは?
代打の概要
野球では、攻撃時にバッターの打つ順番が決まっています。
出場する9人のメンバーが、事前に決められた1番から9番までの打順に基づいて攻撃を行っていきますが、必ずしも試合が終わるまで同じメンバーである必要はありません。
出場している選手が負傷した時、チャンスが巡ってきた時、ピッチャーと相性のいい選手を出したい時など、試合の途中で控え選手を代打として出場させることがあります。
<代打を出すシーンの具体例>
- 打順の巡ってきたバッターが自打球で負傷し、打撃を継続できない時。
- 相手が左→右ピッチャーに交代し、相性を考えて左→右バッターに交代したい時。打順の巡ってきたバッターが自打球で負傷し、打撃を継続できない時。
- 得点できるチャンスの場面で、より打率の高いバッターに交代したい時。
- 得点できるチャンスの場面で、ピッチャーに打順が回ってきた場合(プロ野球に多い)。
- ランナーを送りたい場面で、バントの得意な選手に交代したい時。
打順の巡ってきたバッターに代わって控えの選手が打撃を行うこと、あるいは打撃を行う選手のことを代打と呼び、その多くは攻撃力を高めるために起用されることを押さえておきましょう。
代打後に1球で三振というケースも
代打が送られる場合、監督や選手が球審にタイムを要求→選手の交代を告げるシーンを目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。
プレーヤーの交代が許されるのは、ボールデッド(=タイムがかかっている状態)の時と規定されており、タイム中であれば、いつでも代打を出せるということになります。
タイムについては、こちらの記事でご紹介しています。
つまり、出場している特定の打者に打順が回ってきたタイミングで、タイムを要求し交代を告げることはもちろんですが、ピッチャーがその打者に何球か投げた後で、代打を送ることも可能ということです。
例えば、バッターが何球か見逃したりファウルにしたりする様子を見て、「タイミングが合っていないな」と監督が感じた場合、途中で代打が送られるケースもあります。
打席の途中で代打として出場した選手は、ボールカウントを引き継がなければなりません。
例えば、交代されたバッターが「1ボール2ストライク」で交代した場合には、代打で出場したバッターは「1ボール2ストライク」から打撃を行うことになります。
つまり、ストライクボールを見逃す、ピッチャーのボールを空振りするといったことがあれば、1球で三振となりバッターアウトになってしまうケースもあるということです。
交代した時点ボールカウントがリセットされることはありませんので、「ボールカウントを引き継ぐ」という点を押さえておきましょう。
チャンスなのにピンチ?
代打は「ピンチヒッター(pinch hitter)」とも呼ばれ、その英語表記から「PH」と略されることもあります。「ピンチ」と聞くと、追い詰められた状況や危機的な状況という捉え方をする方も多いかもしれません。
しかし、代打が出される状況・シーンを思い浮かべると、必ずしもピンチであるとは限りませんよね。
もちろん「ピンチ」の場面で出場するケースもありますが、むしろピンチの対義語として使われる「チャンス」の場面に代打が出されることも多くあります。
こうした言葉の背景には、様々な見方・考え方があるようです。
冒頭で、「試合が終わるまで、必ずしも同じメンバーである必要はない」とご紹介しました。
しかし、野球の歴史を見ていくと、かつては病気・ケガなどのやむを得ない状況である場合を除き、代打が認められないルールがあったようです。
そうした危機的な状況での交代に限られていたことから、「ピンチヒッター」と呼ばれるようになったという見方もあります。
また、守備側から見た「ピンチ」の場面であるという考え方、「pinch」という意味の広がりやニュアンスを考えた時に、必ずしもマイナス的な意味で使われるものではないという考え方などもあるようです。
代打に関するルール
代打は1試合で何回できる?
現在の野球ルールでは、例えば「1試合に何人(何回)まで」「1イニングに何人(何回)」までといった代打の制限はありません。ただし、ベンチに入ることができる控え選手の人数には限りがあります。
また、いったん試合から退いた選手が再出場することもできないため、無限に代打を送り続けることは不可能です。
控え選手がいる限り代打を出せることになりますが、その後の守備のことも考えた場合、代打を出すタイミングを考える必要があると言えます。
代打後の守備
代打で出場した選手は、基本的に、交代した選手の打順や守備位置を引き継ぐことになります。ただし、守備位置につく際にポジションを変更したり、他の選手に交代したりすることも可能です。
プロ野球などでよく見られる光景ですが、例えばピッチャーに対して代打を出した場合、その選手がそのままピッチャーを務めるということはほとんどありません。
こうしたケースでは、代打で出場した選手を控えピッチャーと交代したり、ピッチャーが他の打順の選手と交代し、代打選手の守備位置を変更したりします。
代打の代打はできる?
攻撃側から見た場合、「左ピッチャーvs左バッター」よりも「左ピッチャーvs右バッター」のほうが、相性がいいと考えられています。
例えば、チャンスの場面で代打に左バッターを送ったとします。それを見て、守備側が右→左ピッチャーに変えてきたらどうでしょうか。
監督は相性を考えて、さらに右の代打を送りたいケースが出てくるかもしれません。
この場合、代打で出た選手をすぐに別の代打にすること、すなわち「代打の代打」はルール上認められています。
なお、ピッチャーは打者1人をアウトにするか、その打者が一塁に到達するまで投げなければなりません。
「代打の代打」は可能ですが、「リリーフのリリーフ」はできないということになります。
つまり、左を出してきたから右、右を出してきたから左…といったように、守備側・攻撃側の交代が繰り返されるようなことはありません。
また、1回表にピッチャーへ打席が回ってきた場合も、まだ1人の打者とも対戦していない状況であるため、代打を出すことはできません。
ピッチャーの交代については、こちらの記事でご紹介しています。
指名打者(DH)に代打は出せる?
指名打者(DH)は、ピッチャーに代わって打撃を行う選手です。
ピッチャー=守備、指名打者=攻撃といった分担がなされ、指名打者は打撃専門の選手として出場します。
通常は9人の選手が打撃・守備を行う形で試合が進行しますが、DHを導入する場合は、10人制となる点が特徴です。では、この指名打者に代打を送ることは可能なのでしょうか。
結論としては、指名打者(DH)に関しても、ほかの打者と同様に代打を送ることは可能です。
ただし、先発出場した指名打者が“一度も打撃を完了していない状態”で代打を送ることはできません。
バッターが「アウトになる」または「走者となる」ことで打撃完了となり、代打が認められる条件を満たすことになります。
なお、先発ピッチャーがすでに交代した場合は、一度も打撃を完了していない状態であっても代打を送ることが可能です。
指名打者(DH)に代打を出すとどうなる?
先ほど、代打で出場した選手は、交代した選手の打順や守備位置を引き継ぐことが基本であるとご紹介しました。
指名打者(DH)に代打を送った場合は、交代した選手が指名打者の役割を引き継ぐことになります。
ただし、打撃専門であるため、守備位置を引き継ぐことはありません。
指名打者が守備につくこともできますが、その場合は指名打者が消滅するため、出場選手は10人→9人に減る形となることも押さえておきましょう。
まとめ
今回は、代打のルールについて、ご紹介しました。
代打の仕組みや、ルールに基づく起用法などを見ただけでも、野球の奥深さや戦略の広がりを感じることができると思います。
また、「ピンチヒッター」などの言葉の由来や、それに関連した野球の歴史に目を向けると、新たな発見があるかもしれません。
この記事を通じて、代打に関する基本的な知識、ルールなどの応用的な事項をしっかりと押さえておきましょう。