ボークと聞くと、ピッチャーの行為によって引き起こされるイメージがあるかもしれません。
ただ、俗に「キャッチャーボーク」と言われるものも存在し、過去の高校野球地方大会でも話題になったことがありました。
今回はキャッチャーボークに関する概要とルールについて、分かりやすく解説していきます。
また、日本の野球においても導入された「申告による故意四球(申告敬遠)」とキャッチャーボークの関わりについてもご紹介していきます。
h2: キャッチャーボークの概要とルール~基本編
キャッチャースボックスとは?
ホームプレートの周辺を見ると、バッタースボックスの後方にはキャッチャーが座る場所を取り囲むよう白線が引かれています。
これは、「キャッチャースボックス」と呼ばれるもので、キャッチャーが原則として位置すべき場所を示しているんです。
キャッチャーはホームプレートの直後に位置しなければならないと野球規則で規定されていますが、この「ホームプレートの直後」を示すのが「キャッチャースボックス内」と考えると分かりやすいと思います。
キャッチャースボックスに関して、両サイドのみ白線が引かれているケースを目にする方がいるかもしれません。“ボックス”という名称でありながら、両サイドを結ぶ後方の線が省略されていることもあるんですよね。
プロ野球では、どの球場を見ても後方の線が引かれていないことに気づくと思います。
ただ、これはあくまで省略されているだけであって、本来はキャッチャーが座る場所を取り囲むように引かれなければならないものとされています。
後方のラインを示している形が正規であり、ルールで定められた区画なんですよね。では、なぜ省略されることが多いのでしょうか。
キャッチャースボックスの後方の線
省略される理由を探るために、キャッチャーの動きをイメージしてみてください。例えば、ピッチャーの投球を受けるシーン。
インコース/アウトコースへ構えるために「横方向」への移動はありますが、後ろへ移動することは基本的にありませんよね。
縦方向の動きを考えると、キャッチャーはホームベース側に寄ることがほとんどだと思います。
バッターやバッターのスイングしたバットに触れてしまうと「打撃妨害(インターフェア)」になってしまうため、ある程度の距離をとることはあるかもしれません。
ただ、ピッチャーや野手との距離が遠くなれば、それだけ不利になることも多くなるため、後方のラインを越えるというケースはあまり考えられません。
つまり、後方のラインが引かれていなくても、あまり問題はないということになります。他のラインに比べると、そこまで重要性や必要性がないと考えられることも多いようです。
また、後方のラインは球審が足を置く場所と重なってしまう場合があります。そうした審判員の声もあり、プロ野球では後方のラインを引かずに試合が行われるようになったという経緯もあるようです。
一方で、アマチュア野球では試合前に両チームが整列することもあります。
その際に、後方のラインが引かれていることで、審判員がきれいに整列しやすくなるという考え方もあるようです。本来の意味・目的とはかけ離れていますが、そうした見方もあると考えると面白いですよね。
キャッチャーボークとは?
先ほど、キャッチャーは原則として「キャッチャースボックスに位置しなければならない」とご紹介しました。
しかし、いつでもその中に位置することは難しいですよね。前述のインコース/アウトコースへ構える場合はもちろん、バント(スクイズ)を警戒するため、あるいはランナーをアウトにするために、ストライクゾーンから大きく外れたボール球(バッターから遠いコースのボール球)をキャッチャーが要求するケースなども考えられます。
野球規則では、プレイのため、あるいは捕球のためにその位置を離れることは差し支えないといった内容が書かれています。
ただし、“あるケースを除いて”という条件がついており、この条件がキャッチャーボークとも関わるルールになってくるんです。
キャッチャーボークが起きる場面
キャッチャーボークは、故意四球のシーンで発生する可能性があります。故意四球は野球規則で用いられている言葉ですが、一般的に「敬遠」と言われているものと同じです。
守備側があるバッターに対して敬遠を企てる場合、「ピッチャーの手からボールが離れるまで、キャッチャーは両足をキャッチャースボックスに置かなければならない」というルールが存在するんです。
これが、先ほどお話しした“あるケースを除いて”の具体的な内容となります。
つまり、野球規則ではプレイや捕球のためにその位置(=キャッチャースボックス内)を離れることは差し支えないと規定されていますが、敬遠の場合に限っては、ピッチャーの手からボールが離れるまで、キャッチャーは片足であってもキャッチャースボックスの外に出すことはできないと定められています。
この規定に違反してしまった場合、塁にランナーがいればボークが適用されます。
ピッチャーの反則行為の一つとして規定されていますが、キャッチャーの行為によって引き起こされるものであるため、俗に「キャッチャーボーク」と言われることが多いです。
キャッチャーボークの概要とルール~応用編
なぜキャッチャーボークがあるの?
ボークは、バッターやランナーを意図的に騙してはいけないという考え方が根本にあり、それを防ぐことを目的として規定されています。
キャッチャーボークに関しては、あまり「騙す」という印象ではなく、他のボークとは少し性質の異なるものと言えるかもしれません。
敬遠の際、はじめからキャッチャーがキャッチャースボックスの外に立つことを認めてしまうとどうでしょうか。モーションに入る前から「どこに投げるべきか」が分かるため、ピッチャーとしては敬遠球を投げやすくなるものと考えられます。
野球は「バッターに打たせるスポーツ」であるという根本的な考え方が存在していることを忘れてはいけません。もちろん、作戦のなかでボール球を投げることはあります。
ただ、バッターが打つことでプレイがはじまる=バッター主体だった歴史があり、その考え方は今日の野球ルールにおいても通じる部分があるんです。
敬遠は、「バッターに打たせる」という考え方とは対照的なプレイと考えられます。そうしたプレイにおいて、敬遠球を投げやすくする=より守備側が有利になることを防ぐために、キャッチャーボークが存在すると考えることもできるかもしれません。
野球には、「なぜ?」「どうして?」というルールもあります。そもそも「なぜ3アウト制なの?」といったように、当たり前だけどよくよく考えてみれば…というルールもあるかもしれません。
「ルールで定められているから」と言ってしまえば、それで終わってしまうかもしれませんが、歴史的な背景であったり、違った視点から物事を見つめたりすると、ルールに対する理解が深まって、見方や考え方が変わる部分もあると思います。
キャッチャーボークの運用実態
プロ野球のテレビ中継などを見ていても、キャッチャーボークを目にする機会は基本的にないと思われます。
これは、キャッチャーボーク自体があまり頻繁に起こるプレイではないからという見方もできるかもしれません。
しかし、規則と照らし合わせてみると、キャッチャーボークを取られてもおかしくないシーンがあるのは事実です。
敬遠が行われるのは、試合が拮抗していたり、緊迫していたりするシーンも多いですよね。
得点が絡んだり得点に結びついたりする判定、あるいはその判定によってサヨナラになるケースもあるため、厳格にキャッチャーボークを適用せず、黙認されているような側面もあるかもしれません。
キャッチャーボークに限った話ではありませんが、球審に猶予を与えてもらったり、球審から指導を受けたりすることもあるかもしれません。
しかし、ルールで反則行為に規定されている以上、ボークを取られても致し方ない状況であることに変わりはありません。
一発目からボークを取られなかったとしても、猶予や指導を経て、後にボークを取られるケースもあります。
いずれにしても、キャッチャーはピッチャーの手からボールが離れるまで、両足をキャッチャースボックスに置かなければならないということを念頭に置かなければいけないということです。
申告敬遠とキャッチャーボークの関係
日本の野球においては、2018年から「申告による故意四球」、いわゆる「申告敬遠」の制度が導入され、プロ野球や大学・社会人野球などで取り入れられました。高校野球では導入の見送りが続いていましたが、2020年シーズンの公式戦より採用されています。
ただし、2020年は春の選抜および夏の選手権大会が中止になったため、プロ野球のようにテレビなどで申告敬遠のシーンを目にすることはないかもしれません。
なお、代替として各都道府県で行われている独自の高校野球大会では、そのほとんどで申告敬遠が導入されているようです。
申告敬遠の導入によって、ピッチャーが投球することなくバッターを1塁に歩かせる(バッターに対し1塁への安全進塁権を与える)ことができるようになります。
そのため、キャッチャーボークが適用されるケースは必然的に少なくなると考えられます。
もちろん、申告せずに4球のボール球を投げて敬遠することもできるため、その際にはキャッチャーボークのルールに留意しなければならないことに変わりありません。
さいごに
今回は、キャッチャーボークに関する概要やルールなどをご紹介しました。
もともと適用されることが珍しいと言われているルールですが、申告敬遠制の導入によって、キャッチャーボークを目にする機会はより少なくなるものと考えられます。
ただ、適用される機会が少ないプレイほど、私たちがよく知らないルールや曖昧なルールも多いかもしれません。起こりがちなプレイのルールを知っておくことはもちろんですが、数少ない適用事例に目を向けることで、ルールに対する理解はより深まっていくと思います。