「ストライク」に「打て」「打ちなさい」といった意味があるように、野球はもともと「打つスポーツ」として成立しました。ピッチャーが投げるボールを打つためには、バットが欠かせません。
一口に「バット」と言っても、木製や金属といった材質はもちろん、硬式用や軟式用、色や形状など、その種類は様々。野球規則で定められている規定のほか、プロ野球やアマチュア野球それぞれに、バットに関するルールや基準が存在しています。
今回は、野球のバットについて、ルールや基準などを分かりやすく解説していきます。
野球のバットに関する基本的なルール
ここからは、バットに関する大まかなルールをご紹介していきます。
冒頭でもお話ししたように、野球規則に定められているルールのほか、プロ野球や社会人野球、高校野球、軟式野球、リトルリーグ、リトルシニア、ボーイズリーグなど、それぞれにバットに関するルールや基準が存在しています。
また、大会によっても使用できるバットの基準が異なる場合があり、独自のローカルルールなども存在します。
こちらでは、いくつかのルール・基準をピックアップしていきますが、細かな規定については、各組織や大会の規定・概要をご確認ください。
なお、バットに関するルールは、記事作成時点(2021年1月現在)より変更される場合があります。
バットのサイズ・形状について
野球規則では、バット=滑らかな円い棒であるとしたうえで、バットの長さが106.7cm以下、バットの太さが6.6cm以下である必要があると規定されています。
また、アマチュア野球における金属バットについては、バットの最大直径67mm未満、バットの質量900g以上(ヘッドキャップ、グリップエンドノブ、グリップテープを除いた本体の質量は800g±10g以上)という規定があり、その形状については、なだらかな傾斜であることが求められています。
なだらかな傾斜とは、具体的に打球部~グリップ部までの外径における収縮率が10%を超えないこと、テーパ部の任意の個所において、50mm間での外径収縮率が20%を超えないことであるとされています。
ただし、これらの金属バットにおける規定については、軟式野球では適用されません。
高校野球では、現在(2021年1月時点)使用できるバットの最大径67mmについて、反発力の抑制を目的として、64mmに縮小する新たな規定が導入される見込みとなっています。
また、バットの先端がえぐられているバット(=カップバット)を見たことがある方、使ったことがある方も多いのではないでしょうか。
カップバットについても、深さは3.2cm以内、直径2.54cm以上5.1cm以内でなければならないという規定があります。
なお、くぼみの断面については、お椀状にカーブしている必要があり、直角にえぐることや異物をつけることはできません。
グリップ部分について
バットの握る部分(端から45.7cmの部分)について、物質を付着させること、ザラザラにして握りやすくすることは問題ありませんが、45.7cmの制限を超えて細工したものを試合で使用することはできません。
また、いわゆる「コブ」と呼ばれる意図的に取り付けたグリップについては、先ほどご紹介した「バット=滑らかな円い棒」に反してしまうため、認められていません。
バットの握る部分にテープを巻くことは問題ありませんが、そのテープを何重にも巻いてコブを作ること、凹凸のあるテープを巻き付けることもNGであることも押さえておきましょう。
このほか、グリップエンドの代わりとしてリング状のものをつけることや、バットを削り、コブを2つ作ることも認められていません。
ちなみに、バットのグリップエンドの部分に関して、いわゆる「こけしバット」と呼ばれるもの=グリップエンドの先が長く太いものについては認められています。
ただし、異常に長かったり大きかったりするものはNGであるため、あくまでも許容される範囲内で認められていることを押さえておきましょう。
木製バットの色について
木製バットにおける着色バットについては、アマチュア野球・プロ野球それぞれで以下の色が認められています。
<アマチュア野球>
- 素材そのものの色(ナチュラル、自然色)
- ダークブラウン(こげ茶)
- 赤褐色
- 淡黄色
- ブラック
アマチュア野球では上記の着色バットが認められていますが、木目が見えないほどの塗装はNGとなっており、しっかりと木目を目視できることが求められています。
また、ボールに塗料がついてしまうなど、塗装の技術が劣っているものも使用できません。また、コーティングをバットの表面に施したものも認められていません。
<日本プロ野球(NPB)>
- 素材そのものの色(ナチュラル、自然色)
- ダークブラウン(こげ茶)
- 赤褐色
- ブラック
プロ野球では、アマチュア野球と異なって淡黄色の着色バットが認められていません。国際規格に合わせるために、2005年より淡黄色が禁止されています。
木目についてはアマチュア野球と同様の考え方ですが、散孔材(メープルなどの素材)のバットで認められていた「メープルブラッグ」のバットについては、木目が見えづらいという理由から、塗装が禁止(2018年1月より)されています。
アマチュア野球もこれに同調しており、すでに流通済みのメープルブラッグバットを除いて、新規には使用できない規則となっています。
金属バットの色について
現在の高校野球では金属バットを使用しているイメージが強いかもしれませんが、もちろん木製バットも使用することができます。
木製バットについては、先ほどご紹介した自然色のほか、ダークブラウン、赤褐色、淡黄色、ブラックの着色バットも使用可能です。
一方で金属バットについてはシルバー系、ゴールド系、ブラックのいずれかの色である必要があります。ただし、上記の色であっても、プレーの妨害となるような反射する色は使用できません。ツートンカラーのバットも使用できません。
また、高校野球ではグリップテープの色にも指定があり、ブラックまたはブラウン系の単色である必要があります。なお、本体と同じ色の型押し加工が施されたものは使用可能です。
軟式野球においては、金属バットの色に制限はありません。ただし、単色以外のバットを使用する場合には連盟の承認が必要となります。
ロゴやマークについて
プロ野球の場合は、日本プロフェッショナル野球組織が承認していることを示す「NPB」のロゴマークが押印されています。
アマチュア野球においては、2012年度より木製バットの公認制度がスタートしており、「BFJ」のロゴマークが押印されているものが公認バットとなります。
なお、「NPB」のロゴマークがある木製バットについても使用可能です。
高校野球やボーイズリーグ(小学生の部・中学生の部)等における金属バットについては、製品安全協会の「SGマーク」が付けられていなければなりません。
軟式野球における金属バット(複合バットを含む)については、「JSBB」のマークがついている公認バットのみ使用ができます。
ちなみに、軟式野球ではバットに「少年用」と書かれているものはC号、D号のボール、「一般用」と書かれているものはM号、B号、C号のボールに使用するものと区分されています。
リトルリーグについては、リトルリーグ部門、インターミディエット部門、ジュニアリーグ部門において使用されているバット(非木製・積層)に米国野球のロゴが貼り付けされていなければなりません(2018年シーズンより)。
これは、米国野球のパフォーマンス基準を満たしていることを意味するものです。
このほか、ボーイズリーグにおける小学生の部では、連盟のマーク(刻印 ※マークシールは不可)が付いている必要があります。
不適合バットや違反バットを使用するとどうなる?
試合前の用具点検
実際に目にしたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、高校野球などをはじめとして、試合前に審判員(審判委員)が用具の点検を行うケースがあります。
これは、試合で使用される用具、プレーヤーが身に着けている装具について規則に適したものかをチェックするもので、バットについても、ここまでにご紹介した内容のほか、バットの凹みやヒビ割れ、グリップテープのゆるみや破れ、剥がれなどがないか点検します。
木製バットは打撃時に折れるシーンを多く目にするかもしれませんが、金属バットについては、あまり折れるようなイメージを持つ方は少ないかもしれません。
しかし、過去の高校野球地方大会でも金属バットが折れたことがあります。規則に適しているかどうかをチェックすることは、同時にこうした危険を未然に防止することにもつながります。
試合前に適合しないバットや違反しているバットを除外すること、もっと言えば、そうしたバットを使用しないように日ごろから注意して試合に臨むことが理想ですが、野球規則には不適合バットや違反バットを使用した場合のルールも記載されています。
不適合および違反バット使用時の取り扱い
バッターの使用しているバットが規則に適合していなかった場合、それを打撃中や打撃が終わった後に見つけたとしても、バッターをアウトにすることや試合から除外することの理由にはできないと定められています。
ただし、ボールの飛距離を伸ばすもの、異常な反発力を生じさせるものなど、改造や加工を施したバットについては、反則行為でバッターにアウトが宣告されます。
プロ野球の場合は当該選手が試合から除かれ、リーグ会長によってペナルティが課されます。アマチュア野球については、バッターに対しアウトを宣告するのみです。
具体的には、以下のようなバットが改造または加工を施したものとなります。
- バットに詰め物をする
- バットの表面を平らにする
- バットの表面に釘を打ち付ける
- バットの中をうつろ(=空洞)にする
- バットに溝をつける
- バットをパラフィンやワックスなどで覆う
バッターが上記のバットを使用したことにより起きた進塁については認められません。
ただし、バットを使用したことに直接関わらない進塁(盗塁、ボーク、ワイルドピッチ、パスボールなど)については除かれます。
バッターが規則違反のバットを「使った」「使おうとした」の判断基準は、バットを持ってバッタースボックスに入ったかどうかで決まります。
実際に打撃を行ったかどうかではなく、バッタースボックスに入った時点で「使った」あるいは「使おうとした」とみなされることも押さえておきましょう。
規則違反のバットを見つけた場合、審判員は規則に適合したバットと交換させる必要があります。
また、相手チームから「違反バットでは?」と確認を要請された場合、審判員が当該バットを検査して、違反かどうかを判断します。
ただし、目視では確認できず違反かどうか判断しかねる場合には、その試合での当該バットの使用を保留して試合が進められます。
さいごに
今回は、野球のバットに関するルールについてご紹介しました。
メーカーから販売されているものを購入して使うケースが大半であるため、私たちが普段意識することのないルールも多く存在しているかもしれません。
ただし、大会によっては使用できないバットなどもあるため、自分の使っているバットが当該試合で使えるかどうかを確認することは重要です。
また、使用する、あるいは使用していくなかで、メンテナンスや交換が必要になる場合もあります。
日々のお手入れはもちろん、メンテナンスにあたって押さえておくべきルールや基準もありますので、ぜひチェックしてみてくださいね。