野球のルールにおける「振り逃げ」とは?
「振り逃げ」と聞いて、みなさんはどんなシーンをイメージするでしょうか。
- ピッチャーが投げたボールを、バッターが空振り三振
- そのボールを、キャッチャーが落とす/弾く/逸らす
- バッターが、一塁に向かって走る
テレビなどで、(1)~(3)の流れを見たことがある方は多いはず。もちろん、様々なシーンが想定されますが、実際に「振り逃げ」と呼ばれる場面で起こりやすいのは、上記のようなケースと考えられます。
ただし、空振り三振した投球をキャッチャーが捕れない=いつでも「振り逃げ」になるのかというと、そうではありません。
振り逃げが成立するためには、いくつかの条件があります。さらに、「見逃し三振」でも振り逃げが発生する可能性はあるんです。
この記事では、野球ルールの「振り逃げ」について、押さえておくべきポイントを分かりやすく解説していきます。
「振り逃げ」ができる条件1~正規の捕球
振らなくても「振り逃げ」になる場合がある
当たり前のように使われている「振り逃げ」という言葉。実は、野球規則(=野球のルールが書かれている本)のどこを探しても、振り逃げという言葉は出てきません。
振り逃げという言葉を聞くと、空振り三振でなければ(バットを振らなければ)起こらないと考えてしまう方は多いはず。
しかし、見逃し三振であっても(バットを振らなくても)、振り逃げが発生する可能性はあります。正しく理解するためのポイントは「正規の捕球」です。
「正規の捕球」を正しく理解する
バッターがアウトになる条件の一つに、「3ストライク目の投球を、キャッチャーが“正規に捕球”した場合」という規定があります。
つまり、3ストライク目の投球をキャッチャーが“正規に捕球”しない限り、アウトにならない場合があるということ。
言い換えれば、バッターが振ったか振らないかに関係なく、振り逃げできる場合があるということです。
正規の捕球とは、簡単に言うと、ボールが地面に触れていない状態で、キャッチャーのミットのなかに収まっているということ。
キャッチャーがミットに収められなかった場合はもちろんですが、例えば、ショートバウンドした投球をキャッチャーがしっかりミットに収めたとしても、一度地面についてしまっているので正規の捕球にはなりません。
ここでは、キャッチャーがボールを弾いたり逸らしたりしなくとも、振り逃げが発生する可能性があることを押さえておきましょう。
振らなくても「振り逃げ」になる
キャッチャーが正規に捕球できない投球は、基本的に「バッターが空振りしなければストライクにならないのでは…?」と考える方が多いかもしれません。
ただ、ストライク判定の投球を、キャッチャーが捕れないというケースも、稀に発生することがあります。
実際に、全国高校野球選手権(夏の高校野球)の地方大会決勝で、見逃し三振の「振り逃げ」が発生したこともありました。この時は、キャッチャーや伝令が、球審にルールの確認をするという一幕もあったんですよね。
なぜ、見逃し三振の振り逃げが起こるのか?
では、なぜストライク判定の投球をキャッチャーが捕れないのでしょうか?考えられる理由としては、以下のようなケースが考えられます。
〇サインミス(球種):キャッチャーの変化球のサインに対し、ピッチャーがストレートを投げた場合など。球の軌道やスピードが異なるため、ストライク判定の投球であっても、キャッチャーが対応しきれないことがある。
〇逆球:キャッチャーがインコースに構えたものの、ピッチャーがアウトコースに投げてしまった場合など。
このほか、キャッチャーが送球体制に入りながら捕ろうとした場合なども、捕球できない理由の一つとして考えられます。
送球体制に入る=「半身になりながら」「ミットを引きながら」という動作を伴うため、ストライク判定の投球であっても、側方や後方に逸らしやすくなるんですよね。
振り逃げと正規の捕球
みなさんは、プロ野球などでこんなシーンを見たことはありませんか?
- ピッチャーが、変化球で三振をとる
- ショートバウンドした投球を、キャッチャーがミットに収める
- キャッチャーが、ボールまたはボールを収めたミットを、バッターの体に「ポン」とタッチする
先ほどご紹介したように、一度ボールが地面に触れてしまうと、正規の捕球にはなりません。
そのため、キャッチャーはアウトをとるために(3)のような動作を行う必要があるんですよね。
もちろん、バッターがすでに走り出している場合には、一塁へ送球することもあります。
ただし、「地面に触れたかどうか」が正規の捕球の判断基準になるとは限りません。
ボールが地面に触れずに、キャッチャーの着用しているユニフォーム、または用具に止まった状態になっても、正規の捕球とはならないんです。
球審(=キャッチャー後方にいる審判員)に当たって跳ね返ってきたボールを、地面に触れる前にキャッチした場合も同様です。
振り逃げが認められないケース
また、空振りしたバッターにボールが当たった場合はどうでしょうか。以下の例をもとに考えてみたいと思います。
- インコースの鋭い変化球を、バッターが空振り三振
- そのままバッターの足に当たり、ベンチの方向へボールが転がっていく
- キャッチャーがボールを取りに行く間に、バッターは振り逃げで一塁へ走る
結論としては、(3)のような状況が起こることはありません。
確かに、キャッチャーは正規に捕球していない(できない)状況ではありますが、投球がバッターに当たれば、その時点でボールデッド(=プレーが止まり、タイムがかかっている状態)になり、振り逃げは認められません。球審によって第3ストライクとバッターアウトが宣告され、プレーが止められます。
バッターが一塁へ走り出そうと、キャッチャーがそれにつられてボールを取りに走ろうと、塁上のランナーが動き出そうと、ボールデッド中のプレーは無効となります。
なお、ストライクと判定されるべき投球(ストライクゾーンを通る投球)にバッターが当たった場合も同様です。
「振り逃げ」ができる条件2~ランナーとアウトカウント
一塁ランナーと2アウトがポイント
キャッチャーが正規に捕球できない=いつでも振り逃げができるとは限りません。
振り逃げができる条件には、ランナーの位置とアウトカウントも大きく関わってきます。
ここでは、振り逃げができる2つのパターンを押さえておきましょう。
- 一塁にランナーがいない場合
- 一塁にランナーがいる場合も2アウトであればOK
一塁にランナーがいない場合というのは、「ランナーなし」のほか、「2塁」「3塁」「2・3塁」が当てはまります。
ただし、2アウトの場合は一塁にランナーがいる場合(「1・2塁」「1・3塁」「満塁」)でも振り逃げをすることが可能です。
バッターがランナーになる条件の一つとして、「上記(1)・(2)の時に、3ストライク目の投球をキャッチャーが捕れなかった場合」とも規定されています。
つまり、振り逃げの条件が揃うと、バッターはランナーになるということです(「バッターランナー」や「打者走者」とも呼ばれます)。
「振り逃げ」の条件は攻撃側を守るためにある
条件によって変わると、少し混乱してしまいますよね。
ただ、こういったルールは、攻撃側(「振り逃げ」をする側)を守るために規定されているんです。
それを知ることで、一塁ランナーの有無やアウトカウントとの関係性が、より深く理解できると思います。
ノーアウトまたは1アウトで、一塁にランナーがいるシーン(「1・2塁」「1・3塁」「満塁」)を思い浮かべてください。この状況で振り逃げができるとしたら、どういうことが起こるでしょうか?
一塁にランナーがいる=ランナーが詰まっている状態。この状況で振り逃げを認めてしまうと、バッターが一塁へ走り出すことによって、塁上にいるランナーは押し出される形になります。
塁上のランナーは、嫌でも自分が占有している塁を明け渡して、次の塁へ走り出さなくてはならなくなってしまうんですよね。
ランナーが動き出せば出すほど、当然アウトになるリスクは高くなります。
そうなると、トリプルプレーやダブルプレーになってしまう可能性が出てきますよね。
キャッチャーがわざと振り逃げになるような状況を作り出して、トリプルプレーやダブルプレーを狙おうとするかもしれません。
そういったことを未然に防ぐために、「一塁にランナーがいない=ランナーが押し出されない場合」という条件がつけられているんです。
2アウトの場合は、1つのアウトを取ればOKですよね。
つまり、トリプルプレーやダブルプレーなど、攻撃側に不利になる状況は発生しません。
そのため、2アウトの場合に限って、一塁にランナーがいる場合でも、振り逃げをすることができるというルールになっています。
守備側から見た2アウト満塁の振り逃げ
キャッチャーを中心とした守備側の目線で、2アウト満塁での「振り逃げ」について見てみましょう。
先ほどご紹介したように、2アウトの場合は、一塁にランナーがいても振り逃げすることが可能です。バッターが一塁へ走り出すと、各塁上にいるランナーは押し出される形になります。
『フォースプレイ』となるため、例えばサードランナーがホームに到達する前にホームベースを踏む(ホームベースに触れる)だけでもアウトになるということです。
もちろん、バッターにタッチできる状況であれば、それでアウトをとることもできます。
一塁に送球してもいいですし、二塁や三塁でフォースアウトをとることも可能です。
キャッチャーが後逸してしまった場合などは、ピッチャーなどがカバーしなければならず、ホームでのフォースアウトは難しいかもしれません。
ただ、近くに弾いたり落としたりした場合などは、悪送球というリスクも考えて、自分でホームベースを踏んだ方が安全と考えることもできます。
慣れない状況が発生すると、どうしても「ベースを踏むだけでアウトを取れるの?」と心配になってしまいがち。そうした理由で、フォースプレイの状況でありながら、ランナーにタッチしようとする光景もよく見られます。
うまくタッチできなかったり、タッチが甘かったりすると、得点を許してしまう状況にもなりかねません。
攻撃側に限らず、守備側も振り逃げができる条件や、そこでのアウトのとり方を押さえておくことが重要です。
野球ルール「振り逃げ」の注意点
振り逃げとダートサークル
最後に、「振り逃げ」の注意点について補足したいと思います。
打席に入るときに、「振り逃げができるかどうか」なんてシミュレーションする方はあまり多くないはず。
三振してしまった後に、振り逃げできることに気づかず、ダッグアウト(ベンチ)へ戻ろうとする人がいるかもしれません。そこで、監督やコーチから「走れ!走れ!」という声がかかって、慌てて一塁へ走り出すといった光景もよく見られます。
ここで押さえておきたいのが、「ダートサークル」と呼ばれるもの。実は、「振り逃げ」と深い関わりがあるんです。
先ほどの、「慌てて一塁へ走り出す」という光景をイメージしてみてください。
2007年にルールが改正されるまでは、ダッグアウトあるいはダッグアウトのステップ部分に到達しない限り、途中で振り逃げできることに気づけば、一塁へ向かうことが認められていました。
ただ、バッターズボックスからダッグアウトまでは、けっこう距離がありますよね。守備側の立場で考えると、一定時間バッターの動きを注視しなければならないケースも出てきます。
状況によっては、一塁へ転送してバッターをアウトにしなければなりません。
塁上のランナーの動きによっては、ずっとバッターを見ているわけにもいきませんし、守備側とすれば、少しでも早く次のプレーに移りたい、集中したいと考えるプレーヤーが多いはずです。
そうした余計な時間をなくし、スピードアップを目指していこうという動きのなかで、日本では2007年にルールが改正(メジャーリーグでは2006年改正)されました。改正内容を要約すると、以下のようになります。
【改正前】ダッグアウト・ダッグアウトのステップに到達したらアウト
【改正後】ホームベースを囲んでいる土の部分(ダートサークル)を出たらアウト
つまり、ダートサークルを基準とすることで、バッターのアウトが、よりスピーディーに確定しやすくなったと言えるかもしれません。
攻撃側の視点で考えた場合は、ダートサークルを出る前に振り逃げであることに気づく、気づかせてあげる必要があるということです。
改正後は「土の部分」という表現に変わっていますが、内野または内外野が全て土になっている野球場では、基準がはっきりしませんよね。
そこで、アマチュア野球では、ホームベース周辺を取り囲むように、ほとんどの試合で円形の白い線が引かれるようになりました。
阪神甲子園球場で行われる選抜高等学校野球大会でも、2007年の春から白線でダートサークルが示されるようになっています。
ただし、同じ甲子園球場であっても、プロ野球の試合で白線が引かれることはありません。振り逃げの際には、攻撃側も守備側もダートサークルの意味をしっかりと理解していることが求められます。
振り逃げとハーフスイング
攻撃側も守備側も、どうなればアウトなのか、どうすればアウトになるのかという点をしっかりと押さえておくことが重要です。
過去には、全国高校野球選手権(夏の高校野球)の地方大会準決勝で、ハーフスイングをきっかけとした「振り逃げ3ラン」と呼ばれるケースも発生しています。
ハーフスイングの場合、球審が「ボール」の判定をしたとしても、キャッチャーまたは守備側の監督がリクエストを行い、一塁または三塁の塁審によって「スイング(=ストライク)」と最終的な判定がなされることもあります。
その投球が第3ストライクとなり、なおかつキャッチャーが正規に捕球していない+ランナー・アウトカウント等の条件を満たしている場合は、当然振り逃げが認められることになります。
つまり、ワンテンポ置いてから振り逃げの条件が揃うこともあるんです。こうしたケースがあることも押さえておきましょう。
振り逃げのケースか分からなくなったら
とっさの状況判断では、頭が真っ白になって、振り逃げのケースかどうかが分からなくなる場合もあるかもしれません。先ほどのハーフスイングのように、ワンテンポ置いて…というケースもあります。
攻撃側から見た振り逃げ
攻撃側の視点で見ると、「分からなくなったら、とりあえず一塁へ走る」という考え方もあるかもしれません。
ただ、「振り逃げ」ができないケースにもかかわらず一塁へ走ってしまうと、塁上にいるランナーがつられて走り出してしまう可能性があります。
実際にプロ野球の試合でも、振り逃げできないにもかかわらず一塁へ走り出したバッターにつられて、一塁ランナーが飛び出してしまいアウトになるというケースがありました。
バッターはもちろんですが、各塁にいるランナーも振り逃げができる条件を押さえておくことがポイントと言えます。
ちなみに、振り逃げのケースでは、球審はストライクコールの後に、バッターを小さくポイントする、両手を大きく広げるなどのジェスチャーを用いながら、他の塁審に対して振り逃げの状態であることを伝えます。
一方で、バッターが振り逃げと勘違いして一塁へ走り出してしまった時には、アウトのコール・ジェスチャーでプレーヤーに知らせることも多いです。
バッターランナーの動きに惑わされないためには、塁上にいるランナーも振り逃げの条件を把握していることが重要ですが、球審の動き(コール・ジェスチャー)が、自身の判断の手助けとなる可能性もあるかもしれません。
守備側から見た振り逃げ
また、守備側の視点で見ると、「分からなくなったら、とりあえず『振り逃げ』だと思って対処する」ことが無難と考えることもできるかもしれません。
キャッチャーがバッターの体にタッチすることはそこまでリスクが伴わないと思いますが、例えば一塁へ送球する場合などは、不必要である行為にもかかわらず、悪送球によって塁上にいるランナーの進塁を許してしまう可能性も考えられます。
振り逃げであるかのような対処をして不利益が生じても、ボールインプレイ(=タイムがかかっていない状態、プレイが全て有効な状態)であるため、取り消されることはありません。
先ほどご紹介したハーフスイングのリクエスト中なども、一度動きが止まるような形にはなりますが、ボールデッドではありませんので注意しましょう。
さいごに
今回は「振り逃げ」のルールについてご紹介しました。
審判員に限らず、選手や指導者も、野球ルールを正しく把握することが重要です。
その時に、「なぜ」「どうして」の部分を追求することによって、より野球ルールを深く理解することにもつながっていきます。
振り逃げの成立条件を押さえるだけでなく、そもそも「なぜ振り逃げというルールがあるのか?」「どうして2アウトを除いて、一塁にランナーがいると振り逃げできないのか?」などを知ることによって、納得できることも多いはず。
今回ご紹介した内容を、ぜひ実戦で生かしてみてくださいね。